CONCEPT
野生動物たちは、なぜ農地に現れるのでしょうか?
深い森に住む野生動物たちには、外敵から身を守るための隠れ家が必要です。
かつて、森の奥には隠れ家となる藪がたくさんありました。その理由は、薪や炭の材料として、あるいは建築材として、森には常に人の手が入っていたからです。
適度な伐採や間伐が行われることにより、森の隅々にまで太陽の光が行き渡り、彼らの隠れ家となる藪は守られてきました。
しかしエネルギーは電気や石油へと変わり、資源としての森の価値が忘れられると共に、次第に放置されるようになります。すると高木の枝葉ばかりが茂り、光が入らず、藪が育たなくなると言われています。
一方の農地はどうか。
ここでは高齢化や過疎化により、里山の荒廃が進んでいます。かつて動物たちの住み家であった森と、人里との境界にあった里山が荒れ、藪に覆われると、動物たちは次第に山を下りて、隠れ家を里山に移すようになります。さらに隣接する農地が耕作放棄され、そこも藪に覆われると、動物たちのすぐ目の前には、美味しそうな農作物が溢れている。
これが日本全国の中山間地域を悩ませる、野生動物による被害の概要です。
いただいた命を、無駄なく使い切りたい。
もちろん、せっかく再生した美作市上山の棚田にも彼らは現れ、時間をかけて育てた農作物を、一夜にして台無しにしてしまうことが少なくありません。
こうした農林水産被害金額は、岡山県全体で年間に約3億円(平成30年度)。特に被害は岡山県北部の中山間地域に集中しており、それが農業者の生産意欲を減退させ、さらに耕作放棄地を生む、という悪循環のもとになっています。
上山でも耕作放棄地の再生により、獣たちの隠れ家と農地を遠ざけ、防護柵を張る、などの対策をしていますが、とても追いつかないのが現状です。
これに対し、国や自治体も防護柵や有害鳥獣駆除に大きな予算を取っており、野生動物を捕獲すると、報酬が猟師に定額支給されます。捕ればお金になるので、猟師たちは増えた鹿やイノシシを集中的に狙うようになりました。
しかし、捕った獲物が食肉として利用される割合は、全捕獲数の10〜20%。それ以外は焼却処分されるなどで、ほとんど利用されていません。
かつては「山の恵み」として、獲物の肉は大切なタンパク源とされていました。いかに相手が農地の敵とは言え、いただいた命を使い切るという「山の文化」までは失いたくない。そこで『Tsunag.』ではジビエ料理の研究を続け、鹿革製品の試作を繰り返してきました。
長く使うほど手になじみ、愛着もわいてくる鹿革製品をご活用ください。そして、今では“害獣”と呼ばれている野生動物たちが、再び深い森の住み家に帰れるように、願っていただければ幸いです。